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  • 執筆者の写真後藤悠樹/GOTO HARUKI

更新日:2019年10月30日


2018年10月のサハリン州立美術館での写真展から約一年が経った。

とにかく早い一年だった。というか、出版プロジェクトを始めた2014年1月からの五年間がやたら早かった。


松岡正剛さんがその著書、「17歳のための世界と日本の見方」で、の中でキリストやナポレオン、吉田松陰などを例に挙げて、五年あれば大抵の事は出来ると書いてあったのを感慨深く思う。制作とサハリンでの写真展、その片付けを込めてきっかり五年間。凄い。。。


(ちなみにこの本は2018年9月のブックスルーエさんでのブックフェアで紹介したくも残念ながら品切れで。代わりに続編の「誰も知らない 世界と日本のまちがい 自由と国家と資本主義」を紹介した。どちらもよく読み直す。世界と日本と自分の関係がよく分かる。2006年、2007年刊。。。あぁぁ、まさか10年以上経っているとは。。)




そのうち少しずつでも振り返りたい。いつかの自分のように、どうしても、何が何でも本にしてまとめ、発表したいと思っている方のために。サハリン各地を一人、時に陽気に、時にトボトボと、決して発達しているとは言えない、バスや列車などの公共交通機関を最大限に駆使して巡り巡り、もしお会い出来るならイチからお話しを聞いて、写真を撮らせていただき、一冊にまとめた日々を。出版まで本当に楽な事は一つも無かったけど、まるで人生をぎゅっと凝縮したように、とても充実した、とても苦しく、大変に楽しい日々だった。




と、いきなり話が逸れましたたが、2018年3月の神楽坂セッションハウスギャラリーでの写真展で展示していたパネルから、「海」の文章を掲載します。写真展では入場料500円を戴いていましたが、もう時間が経ったから公開してもいいよね。


海とは「サハリンを忘れない」の最後の写真、サハリンから日本の方向を見た雪景色の写真です。短い文章ですが、本の写真とともにご覧いただけると幸いです。





 2015年1月、アニワ湾沿いの道をユジノに向けて走っていた。

その日は知り合いのジーマさんと早朝に出発して湖上のコルシカ(きゅうり魚)の釣りを楽しみ、100匹くらい釣り上げたところで、15時過ぎには帰途についた。氷の上に広げた釣りの道具などの荷物を片付け、車に乗り込むとさっきまでの快晴とは打って変わって、突然大粒の雪がバラバラと降り出してきた。


 その勢いは、時間が経つにつれ激しく吹き出し、あっという間に猛吹雪となった。

そのまま走っていると、海が見えた。これはサハリンと日本を分かつ海だ。海上には大きな雪、小さな雪、たくさんの雪が舞っていた。


「ジーマさん!すいません、ちょっと写真撮ってきてもいいですか?」


 私はそう言うと、驚いた彼を尻目に、カメラだけ持って車外へ飛び出た。道路上の少し高くなった縁に立つと、吹きすさぶ海を前に、写真を撮り続けた。

 

 激しく降る雪は、顔に当たると体温でとけて、びしゃびしゃになってきた。カメラに当たると、温度差で雪がとけて、ぐしゃぐしゃになってきた。このままだと、カメラは壊れるかもしれない。それでも構わずにシャッターを押し続けた。足元に目をやると、ただの土だと思った雪の膨らみは、よく見ると打ち捨てられたトーチカだった。


 サハリンで写真を撮るのは、これで最後でもいいと思えた。この島に生きた人生一つひとつに、祈るようにして写真を撮った。

 

 樺太からサハリンへ生きる一片の人生を私は忘れない。



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